動機
現代の通信の安全は、暗号技術によって守られているということはなんとなくわかっていた。 しかし、その仕組みや理由を知らないことには、正しく使うことはできないと考え、 暗号の歴史や、現代の暗号技術の仕組みについて、しっかりと勉強したいと考えた。
そこで、今回は、以前社内の勉強会用に作成したスライドを元に、文章にまとめてみる。 長くなってしまうので、今回は、ざっくりと、初期の暗号についてまとめる。
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暗号の歴史
初期の暗号、暗号の強さが争点となった最初の例は、1586年、スコットランド女王のメアリーが、 国家の転覆を図ったとして、裁判にかけられていた。しかし、決定的な証拠になるであろう手紙は、暗号化されていた。
この暗号が解けるか解けないかが、裁判の焦点となった。
この時期の暗号は、現代から見れば、とても簡単なものであり、先にオチを言ってしまうと、 この暗号は解かれ、メアリーは処刑された。
ここから、暗号の作成者と解読者の、いたちごっこが現代まで続いている。 ではまず、初期の暗号について紹介していく。
シーザー暗号
シーザー暗号とは、単一換字式暗号であり、アルファベットを、数文字ずらしたものに変える暗号化の方式だ。
例えば、アルファベットを3つずらすとする。
*小文字は平文、大文字は暗号文
この場合、
a -> D b -> E c -> F d -> G e -> H
となる。
この暗号は、暗号化するのも簡単だが、同時に、パターンが、25通りしかないため、復号化するのも簡単だ。 25通りの総当たり攻撃を仕掛けた場合、必ず解かれてしまうからだ。
単一換字式暗号
次に、シーザー暗号より、少しだけ複雑な、単一換字式暗号について。
こちらも、あるアルファベットを、あるアルファベットに置き換える、というものだ。
シーザー暗号と違いこの方式は、数文字ずらす、というわけではないため、総当たり攻撃で行くと、かなりの労力を要する。 (26!通りあるため)
例を挙げると、
a -> F b -> U c -> K d -> W e -> A
のようになる。
この暗号を解く方法は、頻度分析
である。
もしこの暗号の平文が、英語で書かれていたならば、暗号化された文章にも、英語の特徴がでてしまう。
長い英文(参考にした本では、単語数は約10万->サンプルは新聞及び雑誌から)において、それぞれのアルファベットの出現頻度を調べてみると、
e ->12% t- > 9% a -> 8% : n -> 7% : q -> 0.1% z -> 0.1%
のようになっている。 これを暗号文と照らし合わせてみると、ある程度の対応しているアルファベットの予想がつくようになる。
少なくとも、26!通りよりはとても小さい数字である。
また、英語では、the
など、よく出てくる単語が決まっており、これらのパターンは、一定である。
よって、暗号文によく出てくるパターン(theの暗号化された単語)を、見つけ、それを頻度と照らし合わせると、
素人でも解けてしまう。
単一換字式暗号のちょっとした応用
また、この単一換字式暗号を少し応用したものとして、
先ほど述べた、よく出てくる単語、theや、where、などの単語をまとめて他のある一文字に置き換える、という手法もある。
例えば、上述のメアリーが使用していた暗号は、
a〜zのアルファベットをそれぞれ、ギリシャ文字っぽい文字に、
andや、theなど、頻出する単語も、また、ギリシャっぽい文字に置き換えるようになったが、結局解かれてしまった。
同音異綴(いてつ)暗号
この暗号は、先ほどの、頻度分析に負けないように考えられた、暗号方式である。
簡単に言えば、最も出現頻度の多い、eには、複数の対応する暗号が与えられる、というものだ。
これの暗号の解読方法の糸口になるのは、英語特有の、ルールを見抜くことだ。例えば、英語では、qの後は、必ずuが来る。
qは出現頻度が低いため、ここを見つけることができれば、qとuがそれぞれ何に変換されているかは予測ができる。
そのほかにも、言語特有の性質で、絞りつつ、総当たりを仕掛けることで、これらの暗号を解くことは、可能になっている。
まとめ
少し、駆け足になってしまったが、まとめると、初期の暗号は、人力で解くことは十分に可能であった。
また、この時代の暗号は、言語学の観点から解読が試みられ、数学的な強さを持っている現代の暗号とは少し違うアプローチの仕方が可能であった。 次回は、2世紀もの間解かれることがなかった、ヴィジュネル暗号、またエニグマの直前まで書いていきたいと思う。